●世界遺産というと、ケルン大聖堂やグランドキャニオン、ピラミッドやタージマハルのように、百聞は一見にしかず、現地へと旅してそれが視界に入ったとたんに「おぉ!」と感嘆のうめきが漏れるような壮大な景観を備えている、というイメージがあります。
山陰地方が誇る世界遺産:石見銀山は地下の坑道なので、アリの巣のようなその全貌をどこかに立って一望する、ということができません。公開されている限られた坑道を歩き、全貌を想像するのです。また銀鉱山の周りに栄えた町並や街道、海岸部の積み出し港などを含めた地域全体を観光資源として位置づけています。しかしそれは地元の視点であり、お客様の視点ではありません。
●お客さまが「世界遺産を見物しようと旅をする」際に事前に漠然と抱く期待感は、なんといっても世界遺産なのですから、前述のピラミッドやタージマハル的な「何か」ではないかと想像されます。石見銀山は歴史文化資源として素晴らしいものです。一方で産業としての観光は、「教育」ではない「サービス業」ですから、代金を支払うお客さまが期待するものに応えて満足させなくてはなりません。「うちの世界遺産はそういう類のものではないのです」というのであれば、このクチコミがネットで広がる時代には遠からず訪問者が減り始めそうです。お客さまが「 期待以上だ 」 と満足して帰路に着けば嬉しく、「 わざわざ足を運ぶまでも無かった 」 とがっかりして帰れば申し訳なくて心が痛い。というのは誰でも同じ、がっかりしたお客さまは「 石見銀山の価値の受け止め方が間違っている 」と考える、というホストはいないでしょうけれども( がっかり名所→ )。
●友森工業では、コンピュータによる三次元設計を業務に取り入れてい ます。そのシステムを生かして、地元山陰地域が誇る世界遺産『 石見銀山 』 の坑道の絵図面から、そのアリの巣のような全貌を形状入力いたしました。いったん形状入力すると、仮想三次元空間のなかで、仮想のカメラを好きな位置に動かして、アリの巣の姿を描くことができます。それが、上に示す、三次元坑道図です。
●銀の鉱床は銀成分を含む熱水が地下から湧き上がってきて形成されます。水が浸透しない変成岩の地層ではその割れ目に熱水が染み込むので、厚さが数センチ程度の板状の鉱床となります。岩盤の割れ目には摂理があるので坑道はそれを追いかけて比較的規則正しい階段状となります(永久坑道)。
砂岩などの地層では地層自体に熱水が染み込むので、それを追いかける坑道は規則性が薄く、いささかモジャモジャとした雰囲気の全貌となります(福石坑道)。
 公開されている坑道は天井が高く快適に歩くことができますが、図面によると高さ60cm幅40cmほどの坑道が延々と続いていたりするようです。当時の人々が小柄であったということもあるでしょうけれど、もしかすると子供も働いていたのかも知れません。山陰地方で「 手伝う 」 という意味の方言「 手子(てご)する 」の語源は銀山などで作業を手伝った、子供たちのことではないかと思われます。

[ 山陰の地酒 ]