■米子城本丸を攻めるには(
城山裾の海水堀や城壁や櫓や門を全て突破し、内膳丸からの加勢も退けて登ってきたと仮定して)
高い石垣を避けて上図の「寅」「牛」「戌」の3方向の入り口を目指すことになります。 攻め手側であったならどの方角を選びたいところでしょうか。
・まず「戌」側は避けたい気がします。左手に櫓が2段ある脇は狭く急な階段なので勢いが落ちます。門にとりつくまでにヒュンヒュンと矢を射掛けられます。その門を突破しても周囲の石垣が高いので結局は「ロ」か「ハ」から攻め入るしかありません。しかしそれには片側は転落して骨を折りそうな、もう片側は登れっこない、それぞれ高さ5mほどの石垣の間の細い通路を数十メートルにわたって移動しなくてはなりません。細い通路をその距離走っている間に通路沿いの塀から飛んでくる矢を全てかわして「ロ・ハ」にたどり着くのはDデイ、「映画プライベートライアンの冒頭のシーン」的な困難さであったと想像されます。
・「寅」側は天守正門側というべき幅12mほどでニ階建ての高麗門があり門の内側には守り手がひしめき合っています。また石垣の基部から大天守基壇までは高低差が10mほどあり
"登山" 的な速度の遅い運動になります。そこへ脇の「櫓」や大天守と小天守をつなぐ「走り櫓」から右に左に矢や石や種子島を射掛けられると考えると「牛」側から攻める案に変更したくなります。
・「牛」側は、高い石垣の上にある守り手側兵士の待機広場から1箇所だけ開かれた虎口です。そこは狭いので2人並んで入ろうとするのが精一杯のところを両脇からカボチャサイズの石など落とされてよろめき、ひしめきあった多勢の守り手にどつかれます。そこから次の門「イ」まで敵陣のなかをやっとこさで突っ切るとまたまたその内側に待機した多勢の兵士の群れから矢を射掛けられ、塀に取り付くと槍で突かれます。かなわんなもう、と言いたいところでしょう。そもそも城各所の配置(縄張り)は機密事項でしょうから、カメラも携帯電話もGoogle
Mapもない当時に、あらかじめ「どこから攻めようか」と計画することも難しい話です( 間諜は放ったにせよ )。攻め手は、ふもとの城壁を突破して城山を登ってきたら訳も分からず、騒乱のなかを攻め込む兵士の流れに押されてただ夢中で進むようなことになりそうです。「虎口へ導く通路」以外の斜面は崖に近い急斜面であるので、「敵軍が曲輪360度の思い思いの場所から城壁に取り付いて押し寄せる」ということにならず、「3箇所の虎口付近から2〜3名づつ後ろに押されて順番にわめきつつ前へ出てくる」 感じになりそうな気がします。
・そんな「がむしゃらに勢いだけで攻めてきた敵」 を賢く撃退する工夫がしっかり盛り込まれている、姿が美しいけれどシンボルとか象徴的な飾り物としてだけの存在ではない、実戦向きの縄張りだと思える米子城。
というわけで敵側は結局 「兵糧攻めにしとくか 」 と考えることになったりしそうです。攻め難いと知られていたからこの城は一度も攻められなかった。そういう可能性もあります。
20kmほど南西にある尼子の月山富田城が、良く知られたその難攻不落さにもかかわらず何度も攻められて毛利領となったことを思うと、時流と政略・攻めるモチベーション次第であって、単純に城建築の攻め難さによって、という話ではないのでしょうけれど。
■話が飛びますが俳句は日本の素晴らしい文化です。
風物の素晴らしさを説明するには足りそうもない限られた文字数に制限されていることが実は武器。
例えるならば。風景写真を500ピースのパズルにしたときに俳句の読み手(詠み手ではない) に与えられるのはその中の重要な3〜4ピースだけ。
読んだ人の側が、その限られたピースから想像して自分なりの「風景の全貌」を頭の中に創り上げます。しばしば香りや手触り、気温や雨音を感じさえしながら。 それは全てのピースがはめ込まれた完成済みの写真を与えられ「へえ、綺麗だね」と感動する単なる受動体験よりも創造的な活動です。
城址探訪を好む城愛好家が城建物のない石垣や地割りを眺めて何事か考えるような表情を作ってたたずむとき、実は与えられた限られた "ピース"
から往時の城の全貌を頭の中に組み立てているのです。ときには守り手としての防衛法や、攻め手側から城を落とす戦略までをイメージしています。石垣などの城跡を訪ねる行為は、能動的でクリエイティブなレクリエーションなのです。
夏草や 兵どもが 夢の跡 ( なつくさや つわものどもが ゆめのあと )
牡蠣の口 もし開かば月
さし入らむ ( かきのくち もしあかばつき さしいらむ )
遠くまで
行く秋風と すこし行く ( とおくまで いくあきかぜと すこしいく )
さまざまの 事思い出す 桜かな ( さまざまの
ことおもいだす さくらかな )
六月を 綺麗な風の 吹くことよ (
ろくがつを きれいなかぜの ふくことよ )
蝶墜ちて 大音響の 結氷期
( ちょうおちて だいおんきょうの けっぴょうき )
わが胸に
すむ人ひとり 冬の梅 ( わがむねに すむひとひとり ふゆのうめ )
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