自転車　絶滅しない鉄　スチールフレーム　友森工業

[ 鋼都山陰 ]
●当社の位置する「境港市」は、汽水湖である『中海(なかうみ) 』の周囲の安来市・米子市などと共に "中海圏(ちゅうかいけん)" を形成しています。中海圏の安来市は、たたら製鉄が盛んであった中国山地　( 現在日本刀の材料になる玉はがねは、唯一山陰のたたら場でのみ産出されています ) からの積み出し港として、江戸後期には国内鉄生産量の実に９割を安来港が取り扱っていたという "鋼都" です。　現在も日立金属が操業しており、ヤスキハガネはカミソリの替え刃素材では世界シェアが５０％以上、自動車のパワステ用ベーン歯車の世界シェア３０％以上、国内産工具の素材シェアトップ、となっています。
●元素記号Ｆｅ・元素番号２２の「鉄」。赤がね( 銅 ) は柔らかいので強度から用途が限られました。くろがね( 鉄 )を手にした部族・国家は繁栄するので、歴史上長いあいだ国家発展のシンボルは「鉄の生産高」や「鉄の生産技術力」でした。５千年前から人類は鉄に親しみ、産業や暮らしのさまざまな場所に用いてきました。人間は、"鉄を使う生き物" なのです。鉄は他の金属に較べて特異な性質を持っているそうですが、それは水に似て様々な物質を溶かし込むことができること、２つめは温度によって結晶構造を変えるので溶かし込んだ元素を取り込んだり吐き出したりさせることなのだとか。それによって強度や靭性などの性質をコントロールできる、素晴らしい材料だといえるそうです。当社も日々鉄を切り、曲げ、折り、叩き、鍛え、削り出し、磨き、そして溶接しています。　　( 自転車フレームパイプ径はなぜ25.4や28.6か→ )

[ アルミ ]
●人類は５千年前から鉄を使っていますが、アルミの製造が始まったのは１９世紀になってから、日本国内でアルミの生産が始まったのは昭和になってからだそうです。さて『アルミは軽い』という意味は、こういうことです。アルミは鉄よりも強度が小さい弱い金属。そこで強度を出すために鉄よりも太くて肉厚なパイプを用いて造ることになるのですが、それだけ材料をたっぷりと使っても素材自体の比重が極めて軽いので、依然として鉄フレームよりも軽く仕上がる、という意味なのです。自転車にとって軽さは１つの武器であり、同時にアルミの長所となります。ただし曲げたり戻したりの繰り返しによる金属疲労限度が鉄の１／2.5 と小さいため、小さな力や衝撃であっても数千回数万回と加え続けるとひずみが蓄積していつか必ず壊れてしまうというその性質が、鉄と大きく異なっています。　また走行して身体が感じるアルミの振動は、鉄フレ-ムの振動に較べると長距離で疲れを誘いやすい、ということもよく言われることです。
当社はアルミ)のTig溶接も極めて得意としていますが、スポーツ自転車フレーム製作においては、スチールの長所を活かすことをより重視しています。

[ カーボンフレーム ]
●鉄筋コンクリート。コンクリートは圧縮に極めて強いものの引っ張りに対しては圧縮の１／１０の強度しかありません。そこで引っ張りに強い鉄筋を内部に置いて、全体として圧縮にも引張りにも強い構造としたのが「鉄筋コンクリート」です(コンクリートと鉄の熱膨張率が同じであったことが人類にとって幸運でした。膨張率の等しい金属がプラチナ等であったなら産業の発展がかなり阻害されたでしょう )。
同様に高分子樹脂の内部に炭素繊維を置いて全体として強度を高めた軽量なチューブを用いたものがいわゆる『カーボンフレーム』です。軽さと高強度の物性が素晴らしい上にどんどん進化しています。　特にヒルクライムの含まれるレースに出場するのであれば、カーボンフレーム自転車を選ぶべきでしょう。
ところでカーボンフレームという呼称からは２大要素の１つである "樹脂" が欠落しているので、「鉄筋コンクリートフレーム」を「鉄筋フレーム」と呼ぶことに似ています。カーボンフレームのコンクリートにあたる "樹脂" は、バインダーを加えたうえで大きな熱を加えて高分子を形成するものであるそうなので、一般に思われているほど安定した物質ではないようです。紫外線だけでなく、型から抜くための剥離材などにも中長期的には影響を受けるようです。インターネットGoogleで検索キーワードに "カーボンフレーム" という単語まで入力すると、『もしかして調べたいコトはこれですか？』と気を利かせたGoogleがリストアップしてくれる２語目の推察キーワード１０個の中に、"ロードレーサー" や "クロスバイク" などだけでなく、　　"耐久性" "寿命" "劣化" "修理" "破損" などの、人々の心配を連想させる言葉が並んでいます。それは人々が「樹脂」に対して直感的に持っている本質的な印象からきているのでしょう。

[ チタンフレーム ]
●日本において英語のアイ(ｉ) を "イ" とローマ字読みをしてオリオン座・ビタミン・ディレクターなどと呼んでいるカタカナ語は、かの地ではオライオン座・バイタミン・ダイレクタ等と発音されています。同様にチタニウムは実はタイタニウム、チタンと短縮して呼ぶならばタイタンです。タイタンは神話に語られる巨人であり何かの立派さや強さの形容にしばしば用いられます。あの沈んだ客船も「チタニック号」ではありませんでした。その名を与えられているチタンはアルミほど軽くはないものの鉄に較べると軽くて錆びないので自転車フレームにも用いられます。当社はアルゴンガスによる不活性な雰囲気で行うチタンのTig溶接も得意としており2010年はチタンフレームを企画する構想です。　注) ただしステンレススチールに較べるとチタンは素材の輝きで劣ります。またネジ部に力が加わり続けると溶接のように固まる "焼き付き" という難点があります。全方位満点の素材ではありません。

[ スチールフレーム人気再燃 ]
●鉄フレームからアルミフレームへ、そしてカーボンフレームが現れて進化を続ける一方で、時代が一周したのかまたふたたび鉄・スチールフレームの人気が再燃しています。
アルミフレームやカーボンフレームに較べると細身のシルエットを持つことが特徴的。シルエットで見た場合、どちらも "太目で有機的な形状をしたパイプ" が構成する「アルミフレーム」と「カーボンフレーム」２者の区別は付きにくいものです。一方で「スチールフレーム」はその細身のシルエットだけで『鉄フレームだな』と判別できます。
　　　　　　　　　"スポーツ" はジャージにスパイクシューズ。もしくはＦ１フォーミュラカー。
　　　　　　　　　"スポーティ" はチノパン紺ブレザーにデッキシューズ。もしくは高速サルーンカー。
おそらく『わたしはレースに出る用途ではない日々の暮らしで使う自転車を求めているのだから、カーボンフレームが可能にする超軽量や超剛性感までは要らないなあ。気分よく "スポーティ" な範囲のレベルで満足できると思うんだ』という感覚に、( 錆びの心配はあるものの ) スチールフレームの性質や外観が適合しているのでしょう。素材の持つ振動特性から長時間乗っても疲れが小さい、ということもしばしばスチールフレームについて語られる美点です。それはコカコーラとペプシコーラの違いのように「そういえばどことなくアルミよりしなやかで柔らかい気がするね」という微妙なものではなく、乗り比べれば煎餅と餡パンの歯ごたえくらいに振動のカドが異なっています。硬-軟と固-柔では少し意味が違いますが。

[ ステンレスフレーム ]
●ステンレススチール( 錆びない鉄※ ) の略称がステンレス。添加物によって性質を変えた鉄です。
競技に出場するようなスポーツ自転車においてステンレスフレームは一般的ではありません。ステンレスは通常の鉄に較べて硬く粘りがあり、トップチューブやボトムブラケットやエンド金具を削り出すにも、チューブの溶接を行うにも、より高い技術と手間が求められます。スポーツ自転車において一般的に余分のコストは軽量化のために導入されます。ところがステンレスの場合一般的な鉄材よりも材料が高価である上に加工経費が大きいのに、比重は鉄とほぼ変わりません。『より高価な自転車 ≒ より軽量な自転車』という評価軸においては価格が高いことの弁解が難しくなります。
ところが前段で述べたように軽量であることや競技タイムに有利であることに重点をおかず、再び鉄フレームのよさが見直されているという潮流があります。色々な長所を持つ鉄フレームですが、多くの方が　　『錆び』に対して心配や懸念をもっているのではないでしょうか。ステンレスフレームはその名の通り　　 " 錆びない鉄" であり "一生モノ自転車" としてもっと評価が高まっても良いのかもしれません。
ステンレスフレームのスポーツ自転車はほとんど見られないとはいえイタリアの有名ブランドが2008年に新作フレームを発表しており、それを紹介する記事の多くにおいて、"塗装せず素材自体に鏡面仕上げを施したステンレスフレームの上質で高級感のある見栄えは、鉄フレームに数ミクロンのメッキを施したものとはまた雰囲気が違っていて、素晴らしい" という高評価が与えられています。というわけで当社では、アルミでもチタンでも製作ができる状況のなかであえて、市場であまり見ることができないステンレスフレームを製作しています。　※実際は絶対に錆びないわけではなく "極めて錆びにくい" です。

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[ 山本兼一著　「いっしん虎徹」 ]