野茂やイチロー選手を応援するのと同じ視線で、日本のモノづくりの極み:GT-R が 海外の自動車評論家を驚愕させているレポート記事を誇らしく読んでいます。 ひどい渋滞など日本の交通事情に適応した日本車の高速時走行性能に対して、いつもは厳しい評価をする欧州の自動車評論家たちが、高評価を与えざるを得ない GT-R の性能です。

 


 [ その馬力に誇大宣伝は無し ]

  by エド・ヘルベーグ

●我々は、派手に報じられてきたいろいろな開発コンセプト・試作車・ニュルブルリンクサーキットのラップタイムなどのニュースを見聞きするだけであった、何年もの長い時間の後でついに今、東京の北にある仙台ハイランドサーキットに並べられた量産型日産GT−Rから6mほどのところに立っています。

●GT−Rを実際にドライブする時がやってきました。日産のエンジニアは最終的なチェックをした後に我々を手招きして、夜明けからもうキリンビールをがぶ飲みしていたのではないかと思うくらい上機嫌な様子で大きく笑って、キーを手渡してくれました。われわれが何を確かめることになるのかこのエンジニアはもう知っているようじゃないか?とちょっと意味深な笑顔であるような気がしました。日産GT−Rは、本当にあのポルシェ911ターボの性能を半額で与えてくれるのか?さあ、我々自身で確認する時がきました。

●ゴジラとの出会い
地面からたった5センチの高さに座るような大部分の背が低いスーパーカーと違って、GT−Rのドライバーシートにすべり込むことは簡単です。ただしテスト車が日本市場向けモデルであるために運転席が右側にあることが、いろんなことが厄介であるように感じさせます。シートが堅く狭くてセンターコンソール ( 窓の下端 ) が高いので、室内にはタイトに囲まれたコックピットのような雰囲気があります。スタートボタンでエンジンをかけることはもはや目新しくないけれど、GT−Rのそれは運転席と助手席の間、シフトレバーのちょうど後ろに設置されているので、その確認にちょっとばかり戸惑って一瞬考えてしまいます。一旦この生まれたての赤ん坊が走り出すと、473馬力と434ポンドのトルクがほとばしります。外の気温は華氏40度( 摂氏5度 ) で、我々は1周2.5マイル( 4km ) の間に16のコーナーを持つなじみの薄いサーキットの上にいます。

●これは快適グランツーリスモではない
スタートボタンを押すと、静かにV6ツインターボ3.8リットルのエンジンが目覚めます。アイドリング音の静かさはちょっと静か過ぎるように思えたので、アフターマーケットパーツの製造販売者は、もう取替えマフラーの注文の受け付けを始めてもいいかもしれません。日産エンジニアが窓から身を乗り入れてきて、GT−Rのパフォーマンスを最大に引き出すようにダンパーのセッティングとVDCシステムの調整ボタンを 「R」 に設定すると、満足した様子でもう一度大きく微笑みました。その余裕の表情からすると、確かに彼は何かを確信しています。
我々はシフトレバーをドライブに入れると横に倒して、手動シフトモードを選びました。右足のブレーキを離して少しアクセルを踏むと、GT−Rはゆっくりと滑らかにピットから出ました。このあたりはBMW社のガシャガシャ鳴るSMG変速機と違っています。
ピットロード突き当たりの信号が赤から青へ変わると、我々はギアを2速にしてアクセルを踏み、GT−Rはあっという間に112km/h ほどに達します。ターボラグは全くありません。
ハンドル右側にあるシフトパドルを引くと、他のどんなパドルシフト車も匹敵できないような上昇速度と滑らかさを持つ継ぎ目の全く無い1つの加速感の中で、3速ギアに入ります。少し下りながら左に急カーブしている第1コーナーがあっという間に迫ってきたのでブレーキを踏むと、GT−Rはあっという間に40km/hまで速度を落します。ここまでのところ、このGT−Rは完璧なモーターとブレーキを見せています。もうしばらくは準備運動ラップ的に気楽に走ってみましょう。

●日本的な空力スタイル
第3コーナーの前には短い直線があります。ドラーバーズシートからの視界は総じて良好ですが、GT−Rの高さがあるフロントボンネットカウルは、'60年代後半の名車モーパーのようにちょっと大きく感じられます。2つの前輪の上が盛り上がっているのは、ドライバーの目に入ります。GT−Rはポルシェ911よりも17cm 長くて 2cm 幅が広いので、大きく思えるのは気のせいではありません。
次の第3コーナーは上りながら左へ急に曲がるヘアピンカーブなので、第2コーナーでは大きくクルマを振っておいてカーブの頂点からアクセルを踏み込むと、GT−Rは素早く曲がります。まだ我々のコーナリングスピードが低いから素早く曲がるのだとは思いますが、ハンドルの手ごたえには無駄な動きの兆しさえ全くありません。ハンドルをわずかに右や左に動かす気持ちを込めるだけで車体にレスポンスが帰ってくるので、カーブを曲がる際に筋力は全く不要です。
わずかに左に曲がってバックストレートにつながる第4コーナーの頂点に達した時にすでに3速ギアに入っていて、そこから更にスロットルを踏み込みます。GT−Rは恐ろしい勢いで速度を増していきます。もし速度計がデジタルであったなら数字を飛ばして表示しているでしょう。それも2、3の数字ではなくて大量の数字を。ピットから飛び出して第4コーナーに合流したときの2速ギアによる発進加速とは違って、レッドゾーン付近でのこの走りは、3桁の速度で走行していることを実感することが難しいくらいに極めて安定して滑らかです。

だんだんと盛り上がるパワーカーブみたいなものは大して関係ありません。パワーが必要なときには、いつでも手に入ります。ほとんどどんなエンジン回転数でも巨大なパワーが手に入るし、ターボラグも決して感じられません。これは、巨大なアメリカ車のV8エンジンなどとは異なる種類の突進力です。 良し悪しの区別ではなくて、質が違っています。

●何速ギアに入っているかは無視して結構
4速ギアで時速195kmに達しても室内は静かです。コルべットのようにエンジンのバルブ周りがカタカタ鳴るような音はしないし、ポルシェ911のように耳元で泣き叫びもしません。
直線の終わりでブレーキをかけると、ブレンボ社製のキャリパーがまた激しくブレーキディスクに噛み付きます。ブレーキペダルはしっかりしており踏力で調節するのが簡単で、大きな減速Gを生じさせるために力いっぱい踏む必要はありません。ハンドル横のシフトパドルで2〜3段のシフトダウンをさせるように操作すると、二重クラッチのトランスミッションがシフトダウン分の回転上昇を正確にシンクロさせるようエンジンをフォンフォンと吹かしてからギアをつないでくれるので変速ショックが全く無く、GT−Rは安定した走行状態を平然と保ったままです。

素早く右〜左〜右と曲がるシケインコーナーを越えると、GT−Rは緩く右に曲がる長いカーブを抜けて丘を駆け上ります。これほどの身のこなしは予想できませんでした。GT−Rは、ポルシェ911ターボよりも342ポンド( 155kg )、コルべットZ06よりも700ポンド( 310kg ) も重い 3,836ポンド( 1.7t ) に及ぶその車両重量にもかかわらず、驚くほど身軽でコントロールしやすいと感じられます。

GT−Rの車体剛性の高さは、中空の骨格ではなくて巨大なレンガの塊のようで、1周目をほぼ終える頃には、このクルマをコーナーから次のコーナーへと自信を持って走らせることができるようになっていました。正確なステアリングと、コーナーリング中の車体の横方向の回転や揺れがほぼ完全に抑えられて安定していることは、どんなに激しく飛ばしたとしても、コースから飛び出すような事態を遠ざけておくことが簡単です。そして、6ピストンキャリパーを持つフロントブレーキが直径15インチもある冷却孔付きブレーキローターを強力に締め付ける激しいブレーキ時でも、普通はあるはずの車体が前のめりになる動きがほとんどありません。
また剛性が恐ろしく高いシャシーは、ビルシュタインダンパーなどの可動部材に対して、常にタイヤを垂直に路面に押し当てておくように作動するための頼れる良い基盤となります。GT−Rの姿勢には常に何事も起こらないので、可変抵抗ダンパーの目盛りを「最軽」に設定しているときにかろうじて、ダンパーが動作している兆候をかすかに感じることができる程度です。サーキットの最後の2〜3のコーナーで曲率の目測を誤って突入してしまって、限界ギリギリコンマ数秒の間に修正舵を加えたときでさえ、不安になるようなぐらつきや振動は全くありませんでした。我々を信用してください:ポルシェ911ターボで同じ状況を招いたらそんなに寛大ではありません。

●開発チーフエンジニア水野氏の仕事に疑いは無い
それからさらに数周すると、GT−Rに慣れてきて、更にもっとその動きが予想しやすくなってきました。我々は全輪駆動システムが車体をコーナーから次のコーナーへと導くように動作していることを感じられるほどのハイスピードでGT−Rを走らせはじめました。試乗前に、チーフエンジニアの水野氏は、「従来の後輪駆動車と同じように、早めにアクセルを踏んでコーナーを抜けていくこともできるので面白いですよ」 と説明してくれました。それは、エアバスを飛ばすのと同じくらい複雑なアテーサ全輪ドライブシステムを説明するのには、あまりに簡略化しすぎです。
幾つかのタイトコーナーで多めにパワーをかけると、曲がりきれないアンダーステアが生じてしまいそうに思えて、水野氏の説明した走り方を試すのは最初は快適ではありません。コーナーで普通の感覚より大きくパワーをかけることは、コーナリング中にしてはいけないことのような気がするのですが、しかしコーナーの中ほどで普通より多めにパワーをかけていくと確かに、このクルマはカーブの頂点の方へと正しく向きを変えていきます。後輪にパワーがかかると、一気に流れたり揺れ戻したりはせず、適度なパワードリフトが車体後部を少しづつ外へ押し流していく状態が保たれるのです。VDCの設定は「R」モード。その制御システムが色々と姿勢やパワーを調節していたとしてもまったく自然な動きで、我々には何も感じられません。
それだけの走りをまだ馴染みの薄い乗ったばかりの車から引き出せるなんて、仙台サーキットの常連になったような気にさせます。限界ギリギリの走りを保っているときでさえ、このクルマは、ほんのちょっとの操作だけしか必要としません。ステアリング、ブレーキ、トランスミッション。それらは全て、精密で機敏に動作します。確かに車重は重いけれど、ハンドルを指でヒョイヒョイと軽く切り返して幾つかのコーナーを抜けた後では、Kg の数字には何の意味もなくなります。

世界で最も有名なポルシェ911ターボ
GT−Rでかっ飛ばした試乗を終えてピットへ入るとき、我々は全く疲れてなどおらず、むしろ気分がよくなっていました。興奮してペダルを蹴飛ばしてしまうような初心者気分から、平静なままでドリフトをこなせるようなベテランの気分に変わるまでには7周が必要でした。他の大抵のスーパーカーの運転はたった7周で慣れるほど簡単ではありません。
GT−R開発チーフエンジニアの水野氏が、我々がGT−Rをどう思ったかについて尋ねるので、岩のように剛性の高いボディや非常に容易に運転できる操作性を感じたこと、しかしながらポルシェ911ターボと同じくらい速いかどうかは分からないということ、を伝えると 「では比較のためにポルシェターボを2〜3周ドライブしてみてはどうですか」 と提案してくれました。ピットの一番奥に停めてある日産所有のポルシェ911ターボを指さして、水野氏は「2周だけですよ」と言ったのです。
ロールケージとレース用シートを装備していることを除けば、そのポルシェ997ターボは6速マニュアルトランスミッション付きの量産モデルでした。大雑把に走行距離10,000マイル( 1万6千km ) ほど慣らされているこのポルシェタ−ボは、一般道で出くわす同型車の99%よりもコンディションが良好です。
この停まっていたポルシェは冷えているので、最初の1周は気楽に走らせます。しかしまだ半分ほどしか飛ばしていない速度域でさえ、ポルシェ911はすでに驚くほど不安定な感じがします。このクルマは、挙動に反応して随時ハンドル操作をするように要求してきます。ブレーキを踏むと沈んで、カーブでは傾いたり捩れるその挙動は、ごく小さい動きではあるものの、しかし常に安定していたGT−Rと比較すると、ひどく大げさに動くように感じられます。
最初の周回を終えると、我々はペースを引き上げました。純粋な馬力の大きさに関して言えば、2台の車はとても近接している感じがします。ポルシェの方のターボ過給は少しばかり急に作動し始めますが、フルブースト時の馬力の大きさはおよそ同じです。長いフロントストレートの終わりでポルシェ911のブレーキを激しく踏むと、また両車の違いよりもむしろ類似点が見つかります。ポルシェターボもまた、まるでGT−Rのそれと同じように踏力調整が簡単で安定した減速ができるブレーキを備えているのです。
最初のコーナーに飛び込むと、ポルシェターボが急に少し不安定になるので、目を見開いてしまいます。GT−Rと同じくポルシェターボもまたコーナーを曲がる際には安定したスロットル操作を好みますが、安定して曲がっているときでさえ、クルマがどこへ行きたがっているかをドライバーは推察し続けなくいてはなりません。ポルシェターボはGT−Rに較べてはるかに車体の動きが多くて沢山のステアリング修正操作を要求するので、そのことが、さきほどGT−Rの方がそのスピードで走っていたときにはどれだけ落ち着いて平穏であったかを思い出させることになりました。
ただし逆に言えば、ポルシェターボの方は、我々クルマ好きは自分でシフトチェンジすることがどんなに好きなのかを思い出させました。 GT−Rの二重クラッチ式マニュアル風自動シフトチェンジは確かにより速くてより効率的ですが、でも本当の手動マニュアルギアチェンジにおける機械の感触や運転環境には代わり得ないのです。

●追越し車線を占領する資格あり
サーキットでの試乗を終えて、我々は公道でテストするべく一般道のテストルートへと車を向けます。水野氏は手短に、GT−Rは2つの性質を併せ持っていると強調しました。彼いわく、GT−Rは超高性能車にありがちな気難しさがない 「毎日の足に使えるスーパーカー」 なのだそうです。我々は、調節可能なダンパーを最も柔らかい設定に切り替え、ギアシフトはオートマ変速モードに任せて、左側通行の日本の一般道へ繰り出しました。
6,000rpmも回すと元気の良いこの3.8リットルのV6エンジンですが、1,500rpmであっても素晴らしいと感じられます。オートマ設定のトランスミッションができるだけ燃費を良くしようとしてすぐに第6ギアにまでシフトアップしたがるのんびりしたペースのときでも、やはり元気の良さが感じられるエンジンです。もちろん、わずかでもスロットルを踏みつければ、ギアボックスは瞬時に第4ギアまでシフトダウンして叩き込まれます。もしもっと強くスロットルを踏めば、トランスミッションの全てのギアが正しく組み合わさるまで一瞬の間があってドカンと爆発が起こり、速度制限は何kmだろうかと気にかかりながら、我々はフルブーストでスっ飛んでいきます。

ダンパーを軟らかい設定にしても、GT−Rの乗り心地はやはり強固な感じがします。オーナードライバーはそれを気にしないでしょうが、助手席の誰もが乗り心地の固さを気にしないかどうかは分かりません。我々はGT−Rの機敏なステアリングが、舗装路面が完璧でない一般道路では少し気を張らせると予想しましたが、それは逆に高度に調整されている証でもあります。言い換えると、窓枠に肘を乗せて気楽にドライブするクルマではないということです。といっても、すべての路面の窪みで粗く跳ねて窓の肘をはじいてみせるというわけではありませんが。

自然な感覚で運転できるこの車ですが、駐車場で三点切り替えしターンをしたときに1回だけ 「あ、やはり全輪駆動のスーパーカーだな」 と分かる瞬間がありました。ハンドルをロックするまで回して切り返すと、ドライブトレーン付近から、緩いモンキーレンチでキコキコやっているような音が聞こえたのです。何も壊れていませんが、ドライブシャフトが床の下にあることを思い出させる現象です。ま、GT−Rは乾いた舗道路面上でハンドルを一杯に切ったまま低速ターンをするのに最適に設計されてはいないということです。

また再びサーキットに帰ってこれたので、たとえ音声が日本語であってもルートを正しく導くナビゲーションシステムが有用であることは確認できました。そのほかのインテリアについては、他社のクーペたちと クールな内装コンテスト を戦う代わりに、たった70,000ドル( 780万円 ) の価格にも関わらずあらゆる機能を詰め込むこと自体に労力を注いだようで、特に印象的でありません。

●こいつは本物だ
いろいろと確かめて仙台サーキットのピットに戻った我々にとって、日産GT−Rに関する謎はもう余り残っていません。GT−Rがあのニュルブルクリンクを走り抜けたというそのラップタイムのニュースはこのクルマが世界最速級の量産車であることを示唆して世界に衝撃を与えました。我々いま、それは事実であろうと思います。
全状況で常に最大の能力を発揮するGT−Rの親切な高性能は、あなたがもしF1ドライバーであれば大した意味は持ちません。GT−Rはそういう人のための高性能車ではありません。GT−Rはとても高い次元でバランスされていて、どんな操作にも寛大で、路上での動きが常に予想できるので、溝に突っ込むような危険に脅えることもなく、誰でも限界速度付近まで速く走れるのです。
比較したポルシェ911ターボによって明確になりました。日産新型GT−Rは、入手可能な量産スーパーカーとして世界最高の1台として造り上げられた、その期待にちゃんと応えています。あの、余裕を持って微笑んでいた日産のエンジニアは、それを知っていました。そしていま、我々もまたそのことを理解しました。

注) この記事の編集者エドは日産が招待した取材陣の一人として参加し、日産が後援するイベントにも出席しました。

 

 

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[ GT-R出現以前に量販車世界最速と呼ばれたポルシェターボ ]

[ クルマ離れ?ご冗談を ]

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